■STiバージョンの基本ポリシー
STIが企画する「STiバージョン」は、スバル車をベースにさらにパフォーマンスアップした少量限定車である。これらに一貫する開発ポリシーは、「走りに妥協しないクルマ造り」である。さらに、STIに期待される「速さ」を追求するため、加減速性能に手を入れ、これを格段に上げることを第一テーマとしている。そして、パワーユニットをチューニングすれば、必ずそれに勝るシャシー性能を与えなければならない、と考えている。また、第三の約束事として、それぞれのスバル車が元来持つオリジナルのテイストを継承し、キャラクターの良さをスポイルしないこととしている。

■S401の開発コンセプト
スバルの上級車種であるレガシィシリーズの中で最もスポーティな「RSK」をベースに、様々なポテンシャル向上のためのチューニングを施したものである。車格から、大人の感性を満たすプレミアム感を加味し、「走りに特化した上級スポーツセダン」をコンセプトワードとして、開発した。
ベースのレガシィそのものはドイツのアウトバーンで鍛えた車であるが、S401は更に、欧州のあらゆる道を速く、特にニュルブルクリンクのオールドコースを気持ちよくライントレースするイメージを描き、より、欧州の上級スポーツ車に近づくチューニングを施した。

■S401車両概要

【パワーユニット】

★ポイント 「低速から高速までよどみなく吹け上がるエンジンフィール」
4,000rpm付近からの中〜高回転ではフラットに高いトルクを維持し、さらに高回転域の伸び感を強調している。これにインプレッサSTiに採用したスバル内製のクロスレシオ6速マニュアルトランスミッションを組み合わせ、ギヤの選択範囲を広げることで実際の加速性能を向上させている。これによって、例えば5速ギヤでの 100−110Km/hの加速性能は、RSKの5速に対して約1秒近く速くなっている。また、エンジンの回転部分のインナーパーツをバランス取りし、気持ちよい吹け上がり感を実現した。

●主な専用装備

[専用大型インタークーラーエアインテーク]
 ボンネットフード上のインテーク開口部面積を拡大。車速利用率をアップすることで、エンジン吸入空気温度を大幅に下げることができる。

[専用シリコンゴム製エアダクトホース(プライマリー&セカンダリー)]
 プライマリー、セカンダリーそれぞれのターボチャージャからインタークーラーへと圧縮エアを導入するエアダクトホースには、膨張率の低いシリコンゴム製を採用。高負荷時のホースの変形を抑え、スムーズなエア導入をサポートしている。

[低背圧スポーツキャタライザー]
 触媒本体の通気抵抗を低減し、排気ガス浄化性能を維持しながら排気効率を向上している。

[専用ECU]
 ブーストをコントロールし、適正なトルクカーブとなるようエンジン各機能をマネジメントしている。

●エンジン部品のバランス取り
高回転を維持するモータースポーツ用エンジンでは常識となっているメニュー。ピストン、コンロッドは重量ばらつきを極少とするため、手作業で計量・選定している。クランクシャフトは、製造されたクランクのアンバランス量を計量し、手作業で調整・仕上げを行っている。これによって、気持ちよい滑らかなエンジン回転を得るとともに、連続する高負荷運転時の耐久性向上を図っている。このため、量産車では全自動となっているエンジン組立工程とは別の、専用アッセンブリー工程とした。

【制動性能】

★ポイント 「加速性能向上に合せ、躊躇なく踏める剛性の高いブレーキ」
パワーユニットのレベルアップにあわせ、制動能力を向上させるのは当然のことである。ブレーキ容量を上げるため、17インチのブレーキローターを採用。耐フェード性の向上、高いブレーキング剛性感から実績のあるブレンボ製4ポットキャリパーを採用した。また、ブレーキのペダル踏力をダイレクトにキャリパーに伝達するため、ホース膨張率の低いフッ素ゴム製チューブをステンレスメッシュで覆ったブレーキホースを装着し、ブレーキレスポンスの向上を図った。フッ素ゴムチューブの膨張率は、天然ゴムチューブの約1/2である。ブレーキ全体の剛性感に占める割合はわずかであるが、感覚領域では確かな差がある。

【シャシーセッティング】

★ポイント 「操舵に対して素早くノーズが応答するレスポンスの速さ。それによる気持ちよい走り。」
強化したパワーユニット、制動能力に勝るシャシーのセッティングを実現する上で、「レガシィの味を残して、STIに期待される気持ち良い回頭性を追求」することに留意し、以下のメニューを盛り込んだ。

1.クイックステアリングギヤレシオ
 ステアリングギア比をオリジナルの16.5:1から15:1に変更し、応答性も向上させた。応答性を高めると、より緻密なコントロール性が要求されることとなる。そのため、ステアリングギヤボックス内のトーションバーの剛性やマウント部の剛性を上げて、レスポンスとプレシジョンを高めている。

2.強化コイルスプリング
 車体のロールを抑制するため、スプリング荷重を増やす一方、減衰力を抑え、むしろ減衰比は下げている。これによって、レガシィの乗り味に重要な、しなやかさを確保した。また、スプリング長を短縮することで、車体姿勢を約10mm下げた。

3.ピロボールブッシュ式リヤサスペンションリンク
 リヤのサスペンションリンクには、ピロボールブッシュを採用することで、摺動抵抗を低減し、サスペンションユニットの路面追従性をアップしている。

4.前後スタビライザー径の変更
 クイックな回頭性と高いロール剛性を両立するため、専用サイズのスタビライザーバーを前後に新設した。
 フロントはスタビ径を細くしてターンイン性能を上げ、逆にリヤは径を大幅に太くすることで、アンチロール性を高めている。これらによって、弱アンダーステアを保ちながら、リヤが路面を容易に離さない、高度なコーナリング性能を作り上げた。

5.エンジンマウントの硬度アップ
 エンジンマウントは、オリジナルの液入りから中実ラバーに変更した。これによって、大きなイナーシャをもっているパワーユニットの動きを押さえ込み、ゆり戻しの不安定な挙動や重量感を低減。また、舵の応答性、反応の良さも向上させている。

【シャシーの剛性アップ】

★ポイント 「トーション剛性の高いレガシィのボディをさらに補剛し、操縦安定性を向上」
サスペンションを適正に作動させ、高い操縦安定性を実現するため、車体の補剛を行っている。フロントサスペンションユニットをマウントしているクロスメンバーのサイドフレーム取り付け部は、インプレッサSTiタイプRAスペックCと同様に補強材を入れ、さらにそれを上下の追加プレートで補強している。また、ストラットタワーに片側3点支持のタワーバーを装着することで左右のタワーを固定し、サスペンション剛性を高めている。

【タイヤ&アルミホイール】

★ポイント 「あらゆる路面で性能を発揮するタイヤが欲しかった」
サーキットオンリーのピーキーなタイヤでは、このクルマの性格上マッチしない。路面の細かな変化にも対応でき、しかも限界領域のコントロール性が高いものが要求される。このため、欧州の多様な路面で鍛え上げられたピレリ製を選択。WRCで緊密な関係にある同社との協議の結果、専用サイズを設定し、限定400台のためだけに供給することが可能となった。コンパウンド、コンストラクションも専用チューニングである。ケース剛性よりもタイヤ全体の剛性感に配慮している。また、アルミホイールもBBS製鍛造ホイールを採用。オリジナルのスポーク形状をデザインするとともに、高いリム剛性を得ることで、タイヤの接地性にこだわった。

【4WDシステム】

★ポイント 「スポーツドライビング時の適正なトラクション確保とスタビリティ向上」
スポーツドライビングに必須アイテムであるL.S.D.は、フロントには、強大なトルクに耐え、効きのレスポンスに優れるシュアトラック製機械式を採用。高速コーナリングでの確実な食いつき感を重視した。リヤは、RSK標準のビスカス式である。

【エクステリア】

★ポイント 「性能に負けない力強さを指向した」
大人のクルマというポジショニング上、エクステリアに大げさな訴求はしない方針ながら、性能に見合う力強さを表現した。パンパー、フロントグリルは、エンジンの性能向上に伴い、冷却性能を高めるために開口部面積を大幅に拡大した。また、バンパーの両端下部は、高速走行時のリフトを抑える形状としている。また、大型化したインタークーラーエアインテークが力強さを強調している。リヤでは、サイレンサーのテールパイプデザインを変更し、STIらしさを付与した。

【インテリア】

★ポイント 「ドライビングに集中する空間」
インテリアは、とにかく運転に集中する事を最重点課題として全体をアレンジ。全ての色調をブラックに統一し、気が散らないタイトな空間を演出した。インパネ部のプラスチック部分には、専用のソフトフィール塗装を施し、つや消しブラックに。また、ルーフトリムや専用のフロアマットもブラックに変更した。
適正なドライビングポジションを得ることがスポーツドライビングには必須と考え、スライド、リフト、リクライニング、チルトに電動微調整機能をもつ8ウェイパワーシートを採用。座面・背面は、滑らず手触りのよいエクセーヌ素材を、その他の部分に本革製高級素材を使い、レガシィならではの重厚感にも気を配った。
メーターも240km表示の専用ブラックフェイスメーターを装着。アテンションポイントであるメーターリングには、赤色照明式を採用した。またハイパフォーマンス車の証として、赤色ハザードボタンを使い、後続車への配慮も取り入れている。

レガシィS401 STiバージョンのオーナーが人手に任せず、自ら軽微なメンテナンスができるよう、WRCでスバルワールドラリーチームが使っている米国SnapOn社製の専用ツールセットを標準装備とした。

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